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Last Update:2011/5/2
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第185回 原子力発電所事故と不可抗力

(2011年4月27日)

  東京電力福島原子力発電所の事故に起因して、国内外で多くの契約の履行不能が発生している。
  日本国内であれば、事情が十分に考慮されて不可抗力が認容されるだろうが、国際契約においては、不可抗力条項を設けてはいても、必ずしも容易に契約履行義務が免除されるとは言えない。中国企業との契約、中国国内における事業遂行上、どのようなことに注意しておく必要があるだろうか。
  中国契約法117条は、不可抗力について次の通り規定している。
  「(1)不可抗力により契約が履行不能となった場合、不可抗力の影響に基づき一部または全部の責任を免除する。……(2)この法において、不可抗力とは、予見不能、回避不能、かつ克服不能の客観的状況をいう。」
  また、契約法118条において、不可抗力が生じた場合の当事者の義務について、次の通り規定している。
  「一方の当事者は、不可抗力により契約を履行できなくなった場合、遅滞なく相手方に通知し、相手方にもたらす可能性のある損害を軽減しなければならず、かつ合理的な期限内に証明を提出しなければならない。」
  上述の契約法117条2項で、不可抗力の構成要件として、(1)予見不能、(2)回避不能、(3)克服不能を挙げている。(1)予見不能とは、当事者が事件の発生を知る由がなく、その事件の発生および結果が、当事者の主観的な想像を超えている場合をいう。(2)回避不能とは、当事者が如何なる措置を講じても事件の発生を防止し得ないことをいう。(3)克服不能とは、当時の条件および能力をもってしては、当事者が事件によってもたらされる結果を凌ぐ術のないことをいう。
  具体的に予見不能な客観的現象として、火山爆発、山崩れ、雪崩、土石流、地震、台風、洪水、津波、戦争、ストライキなどがある。これらは、契約書の不可抗力条項に例示されていることが少なくない。
  では、原子力発電所の事故はどうか。このような事故を不可抗力条項に例示したものはないのではないか。さらに、今回の日本で原子力発電所の事故に起因して発生している停電(計画停電を含む。)、退避、出荷制限、放射能汚染、交通マヒなどはこれまでの不可抗力の概念には直ちに該当しないものであるかも知れない。
  それでも日本企業としては、不可抗力を主張することになるので、この場合、契約法118条の規定に従って、相手方に遅滞なく通知するとともに、損害拡大を防止する措置を講じておく必要がある。また、不可抗力であることの証拠を整えておくことも肝要である。さらに、事故が長引くことを勘案すれば、事情変更の原則の適用可否の検討もしておきたい。
  国際取引契約において、ハード・シップ条項を設けていれば、この適用も可能であろう。ハード・シップ条項とは、通常の取引上で発生するリスク以外の予期し得ない事態によって、契約の条件が一方当事者に過重な負担となる場合において、合理性と公平性の基準に照らして、契約当事者が誠意を持って契約の修正について協議することを取り決める内容の条項である。

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