★バックナンバー一覧
(2011年5月25日)
企業の不祥事や違法行為を防止し、取り締まるために、行政機関による職権調査は、重要な機能を有する。しかし、行政機関による法に基づかない資金獲得を目的としたような不適切な調査が存在し、さらには不当に行政処罰(罰金)を科すなどの行為があり、このような場合に企業を救済する制度が十分に確立されていないといった問題がある。行政調査制度を規整し、まっとうな企業を救済する仕組みを確立する必要がある。 N市X社は、N市統計局から企業の統計調査を実施するにつき、有料の統計業務研修会議に参加し、また「統計検査調査票」に必要事項を記載して返送するようにという通知を受けた。 しかし、X社は、この調査の法的根拠が明らかでなかったことから、会議参加および調査票への回答をしなかった。これに対して、N市統計局は、X社が行政命令に違反したとして、行政処罰(罰金)を科した。 X社は、この処罰を不服として、人民法院に不服申立てをした。 人民法院の審理において、以下のことが明らかになった。(1)N市統計局の統計調査は、有料の統計業務研修会議に参加した企業でなければ、「統計検査調査票」を受け取ることができないというもので、(2)この会議は観光地で開催され、交通費および宿泊・食費は企業が自己負担しなければならず、(3)かかる研修費用は政府の財政により拠出しなければならないという規定に反し、(4)本当の目的は、N市統計局が自らの収入を図るための会議であり、明確な法的根拠がないのに企業から各種の費用を調達しようとする「乱収費」に相当するものであった。 そこで、人民法院は、N市統計局の通知は不適法であり、X社に対するN市統計局の行政処罰を取り消すという判断を下した。 なぜ、このような事件が生じるのか。行政調査の意義は認められるが、行政調査を行う法的根拠や制度が確立されていないという問題がある。現時点において地方政府の条例で「行政手続規定」といったようなものが存在する。 しかし、この規定においても、(1)行政調査の目的、(1)調査の主体やその資格、(2)具体的な調査体制、方法および内容、(3)調査により得られた情報の使用方法、(4)情報の秘密保持、(5)調査に不服がある場合の救済制度などについて制度が十分に確立されているものはないに等しい。 そうであるので、行政調査権の濫用という実態があり、上述のような事件が多く発生している。 このとき、行政調査制度を規整する必要があるほか、同時に行政調査に対する救済制度を整備する必要がある。これまでの行政不服申立て、行政訴訟の改正だけでなく、行政仲裁や国家賠償制度、行政補償制度などについてより一層の検討、改正がなされなければならない。
※サイトの記事の無断転用等を禁じます。