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Last Update:2011/7/27
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第191回 外資企業紛争事件の審理難

(2011年7月27日)

  外資企業において会社法に関わる紛争が多様化し、かつ増加している。そこで、具体的な事案について、紛争発生の原因を分析し、リスク回避を検討する必要があると考える。
  上海市高級人民法院民事第2部の裁判長である張鳳翔が、『中外合資企業公司法糾紛難点与審判分析』(法律出版社、2010年)を上梓した。同書は、外資企業において、会社法、外資企業法の関係で如何なる紛争が多く見られ、その原因がどこにあり、如何なる紛争解決がなされるのかについて事例研究をする上で有用である。
  最近の外資企業の会社法に関わる紛争の類型には、主に出資、株主の権利確認、名義貸しの投資、融資、機関設計、M&A、再編、解散・清算などに関するものがある。上海市第一中級人民法院が2009年上半期に受理した紛争案件ついて見ると、会社関係の紛争のうち23%が外資関係の案件であった(張、8頁)。
  このように紛争が多様化し、増加しているところ、外資企業としては、第一に、(1)如何なる紛争が裁判により判断されるのかといった人民法院の紛争受理範囲、第二に、(2)紛争が人民法院に受理された後、裁判で公正、公平な審理が行われる否かが非常に気になる。
  第一の問題に関して、最高人民法院は、「民事案件原因(試行)」において会社法関係の訴訟について18の類型を定めている。しかし、今日の紛争類型がすべて網羅されているとは言えない。今日的問題として、株主代表訴訟、株式買取請求の訴え、会社の解散請求などがあるが、これらは18の類型には含まれていない。
  第二の問題に関して、外資企業関係の紛争処理について、各地の高級人民法院による審理上の指導意見も発布されているが、必ずしも詳細なものではない。指導意見は、あらゆる論点について検討されておらず、加えて各地の人民法院が設置されている地方の経済発展レベルが異なることから、会社の紛争事案の審理に関しては、各地の人民法院の裁量範囲が広く、任意性の判断がなされ、結果として地方政府や機関を保護使用とする傾向が色濃く出ることが認められるという。今後の司法解釈により、判断基準が明確にされる必要がある。
  会社法に関わる訴訟について、(1)司法介入の範囲、(2)訴訟手続、(3)事案の審理基準、(4)法律関係の確定、(5)会社法条文の解釈、(6)行政権との関係、(7)判決文の表現方法、(8)判決の執行難、(9)審理経験の少なさ、という9大困難があることも指摘されている。
  例えば、司法介入の範囲に関しては、次のような論点がある。会社の定款自治に対して、司法介入ができるのが如何なる場合かについての確定が難しい。例えば、定款の規定によらない株主総会の招集に対して、株主が人民法院に招集時期の確定を請求できるか否か。株主総会が株主の対する配当を決議しない場合、株主が法院に強制配当の請求をすることができるかなどである。
  外資企業の設立、出資、運営などに際して、上記の紛争類型のなかでも行政機関や株主との紛争に関しては、経済犯罪に該当するとみなされるようなケースもありそうである。外資企業の今日的課題として、会社法の関係で経済犯罪というリスクを如何に回避するかといった問題を検討することも必要になる。

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