コラムに関する感想
お問い合わせ
Last Update:2011/8/10
トップチャイナウォール
コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第192回 鉄道事故と情報公開条例

(2011年8月10日)

  2011年7月23日夜の温州市における高速鉄道事故から2週間が経つ。
  この事故処理をめぐっては、多くの法律問題が存在する。第一に、(1)「突発事件緊急対策法」の適用上、事故処理の妥当性が問題となる。第二に、「生産安全事故報告および調査処理条例」に基づく場合、事故現場および関係証拠の適切な保全要求に従ったと言えるか。第三に、(3)「政府情報公開条例」が要求するところの“すみやか”“的確な”情報が開示されないことである。第四に、(4)「権利侵害責任法」に基づく損害賠償額の適否である。第五に、(5)「刑法」に基づく、刑事責任の追及問題がある。
  このような法律問題が様々ある中、7月31日に人民大学法学院で「反省と改革:列車事故の法律問題の検討」と題するシンポジウムが開催されている。
  こうした法律問題の中でも、多くの市民にとっての最大の関心事は、事故原因の究明にあるのではないか。事故調査に関するプレスリリース(新聞発布会)が行われた際、あるメディアは、「発紙会」(紙を配るだけの会)ではないかと批判したという。2枚の紙が配られ、ここには被害者の氏名もなく、記者の質問に答えないというものであった。
  政府情報公開条例は、公民、法人およびその他の組織が法により政府の情報を取得することを保障し、政府の業務の透明度を高め、法による行政を促し、政府情報の人民大衆の生産、生活および経済社会活動へのサービス提供機能を十分に発揮するために制定されたものである(同条例1条)。 
  しかし、今回の鉄道事故の調査に関しては、この条例制定の精神が反映されているとは言い難い。条例の精神として重要な点は、公正で民主的な行政の推進に資する(日本の「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」1条には、このように同法制定の目的が書かれている。)ことではないかと思うが、かかる意識が欠如していると思えなくもない。
  なぜ、十分な情報公開がなされないのか。この点に関して、劉俊海・中国人民大学法学院教授は、中国の鉄道体制の改革が行われていないことに問題があると指摘している。
  2008年に中国において大規模な政府機関の機構改革が行われ、「政企分開」(政府から企業部門を分離し、企業の独立採算制を実行する。)が進められた際、鉄道部は、「政企不分」が維持された。市場における自由競争が、ひいては経済の繁栄をもたらすという理論に対して、鉄道は建設工事の任務が非常に重要であるので、改革対象から外すという特例措置が認められた。
  しかし、この結果はどうであったのだろうか。中国の鉄道技術に対する信頼性が、世界中で失われることになった。鉄道の安全監督・管理措置に不信任が突きつけられた。劉俊海教授は、「いかにして我々は鉄道技術を海外に輸出しようとするのか? まず足下の国内市場を固めなければならないのではないか。むやみに“走出去”(海外投資)により世界市場を占有するなどという軽口は慎むべきではないか。人に笑われるだけだ。」と言う。 
  鉄道部の腐敗は、これまでに幾度となく指摘されてきた。最近では、2011年3月にも北京—上海間の高速鉄道建設工事で不適切な49億元の契約が発覚したことがあった。
  人身に大きな損害を及ぼす鉄道事故においても鉄道法58条の過失責任の原則規定から、責任を免れることが少なくなかった。さらに、かかる規定があるが故に、事故の原因を隠蔽する体質もあると言われる。
  鉄道部に限らず、情報公開の真の意義「公正で民主的な行政の推進」を再度認識する必要がある。

※サイトの記事の無断転用等を禁じます。


© Copyright 2002-2011 OBC-China Reserved.  
"chinavi.jp" "ちゃいなび" "チャイナビ" "中国ナビ"はOBC-Chinaの商標です。
s