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Last Update:2011/8/24
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第193回 中国初の環境公益訴訟は成立するか

(2011年8月24日)

  渤海蓬莱油田の原油流出事故(この事故の内容に関しては、日本の新聞でも報道されている。)に関連して、2011年8月16日に中国で初めてになるかもしれない公益訴訟が1人の弁護士・賈方義によって起こされた。また、国家海洋局北海支局も石油会社を相手取って損害賠償訴訟を起こすべく準備中であると伝えられている。
  中国で社会に対して多大な損害を及ぼす事故責任、損害賠償処理が大きな問題になっている。最高人民法院の活動報告によると、2010年に各地の法院が審理し、結審した官許汚染損害賠償事件は1万2018件であったという。こうしたことから、環境汚染公益訴訟制度を正式に定める必要性が認識されていた。
  権利侵害責任法(不法行為法)65条は、「環境汚染により損害をもたらした場合、汚染を引き起こした者は必ず権利侵害責任を負わなければならない。」と規定しており、公益訴訟を提起することが可能であるとの認識もあったところである。
  賈弁護士は、海南省高級人民法院、青島海事法院および天津海事法院に油田掘削で事故を起こした中国海洋石油公司(CONOOC)とコノコフィリップス石油中国有限公司(米中合弁会社)を相手取って、100億元の損害賠償基金を設立せよなど提訴した。
  賈弁護士によると、100億元という金額は公益環境保護団体の試算によるもので、渤海遠海地区の生態系回復が主たる内容であるが、海底に沈殿した汚染物質が海南地域に流入する影響も勘案して海南省でも訴訟を提起したものであると言う。さらに、海南省高級人民法院は、公益訴訟の実験単位として指定されており、公益訴訟基金が設けられ、事件受理の可能性が比較的に高いだろうということも理由であると言う。
  さらに、賈弁護士は、8月17日に北京市第一中級人民法院において、中国海洋局を被告とする行政訴訟も提起している。この請求内容は、中国海洋局は、渤海蓬莱油田の原油流出事故に関する情報を社会に速やかに開示しなければならないところ、これをしなかったことは違法行為であり、かかる行政不作為について中国海洋局は新聞紙上やテレビにおいて社会に対して謝罪をせよというものである。
  公益訴訟制度は、中国において確立されている制度ではない。海洋環境保護法においては、海洋生態、海洋水産資源、海洋保護区を破壊し、国に重大な損害をもたらした者に対しては、海洋監督管理権を有する部門が国を代表して損害賠償を請求すると規定されているだけである(90条2項)。従って、過去において個人が環境汚染事故について企業を相手に損害賠償を請求したケースでは、法院が訴えを受理していない。
  今回の賈弁護士の訴えが受理されるか否か。ハードルは高いのではないか。
  それでも民間の環境団体からの要請に応じて、上述の通り、国家海洋局北海支局も石油会社を相手取って損害賠償訴訟を起こすべく準備中である。賈弁護士の訴えは、環境公益訴訟制度確立に向けての推進力になるかもしれない。

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