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Last Update:2011/10/12
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第196回 経済刑法の考え方

(2011年10月12日)

  市場経済化が進展すればするほど、経済犯罪は増えるものなのだろうか。
  日本においても金融・証券不祥事、談合、汚職、食品偽装など各種の企業不祥事や企業犯罪が後を絶たない。そこで、経済刑法という概念が生まれ、企業の犯罪を認定して罰則を強化しようという考え方が生まれる。市場経済主体間における公平な競争の確保のためには、どうしても整備された法体系によって規律される必要がある。
  経済刑法とは、刑法の観点から経済犯罪問題を考え、刑事責任を追及しようとするものである。経済刑法の保護法益は、公平な競争の確保ということにある。
  中国においても社会主義市場経済の発展に伴って、この秩序維持のための経済刑法の重要度が増してきている。
  中国では、1997年の刑法改正により、経済犯罪に係る規定が多く設けられた。第3章で社会主義市場経済秩序破壊罪、第5章で財産侵害罪、第6章で社会管理秩序妨害罪において、環境資源保護破壊罪、第8章で汚職収賄罪等が規定されている。また、刑法改正では、単位犯罪(事業体または企業による犯罪)に関する規定が設けられた。
  単位犯罪については、刑法30条で「会社、企業、事業体、機関または団体が社会に危害を及ぼす行為を行った場合において、法律が単位犯罪と規定するときには、刑事責任を負わなければならない。」と規定している。
  吉林省公主嶺市公安局経偵(経済犯罪捜査)大隊に所属する張瑞は、北京大学法律情報網に「経済刑法概述及体系建構初探(経済刑法概説及び体系構築の初歩的検討)」と題する論文を投稿している。この中で、張は、経済刑法の適用に関連して、次の通りの叙述をしている。
  「公平かつ正当な自由競争が、市場経済の本質的な特徴である。競争がなければ市場経済もない。これは市場経済に内在するメカニズム、すなわち価値規律および需給関係により決定されるものである。競争は自由を必要としている。自由がなければ競争の活力も生まれない。競争の自由は、同時に公平であることが求められ、公平かつ正当な競争がなければ、良好な市場秩序も形成されない。競争の自由と公平が同時に保障されることではじめて、有限な資源の最も適切かつ効率的な分配が可能となる。刑法は、諸刃の剣であり、正しく刑法の機能を適用して市場経済の法的調整を行うことで、市場経済に危害を加える犯罪活動に懲罰を科すことができ、良好で公平な競争秩序を有効に保障し、市場経済の繁栄と発展を促進することができる。」
  この張の考え方は、非常に先進資本主義国の自由経済のそれに近いのではないか。張の論文を目にして、ここまで進歩的な発想をしている者がいることに驚いた。
  今後、企業犯罪対策のための経済刑法に関する研究は、もっと進展するものと考える。また、企業不祥事、企業犯罪を防止するためにコーポレートガバナンスやコンプライアンスとの関係でも経済刑法が考えられることになるだろう。

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