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(2012年1月25日)
中国で法整備が進展している。法体系は、西側先進資本主義国の物と変わらないものが形成されていると評価される。しかし、西側諸国における「法の支配」(Rule of Law)は、どうも生まれそうにない。 中国に立派な法体系がある。この法を以って社会主義秩序が形成されている。従って、「法治国家」(形式的法治主義)であるといえる。しかし、この場合の「法治」は、必ずしも「法の支配」(実質的法治主義)とは随分と異なる。 1999年に憲法の一部改正が行われた際に「法によって国を治め(依法治国)、社会主義法治国家を建設する」という文言が追加された。ここで「依法治国」とは何かが問題となる。一見、法治主義ではないかと考えられるが、実はそうではない。 依法治国の主体は何かがまず問題となる。主体として、(1)中国共産党、(2)全国人民代表大会、(3)国家機関および(4)人民が考えられる。次に、客体は何か。(1)中国全土、(2)国家事務、(3)国家権力の何れか。 西側諸国では、法治主義とは、「人民が、法により国家権力を治める」ということになるが、中国の場合には「中国共産党 が、法により中国全土を治める」と定義されることになりそうである。中国共産党による「以法治国」(法を手段とした治国)と解される。 このように言うのは、2012年1月11日の法院日報に掲載された最高人民法院の胡雲騰による「社会主義法治理念および司法理念のいくつかの認識問題について」と題する評論から判断できるからである。 胡は、2007年12月に胡錦涛総書記が全国政法工作会議代表と全国裁判官、全国検察官との座談会の席上で提起した「当 の事業堅持を至上とし、人民の利益を至上とし、憲法法律を至上とする」という言葉を人民法院の司法理念として学習しなければならないと述べている。すなわ ち、法院といえども何より真っ先に「当の事業を堅持することを至上」とするということである。 胡は、次のように言う。 「中国は民主と法治を確立する過程において、西側の法治理論と実践を知る必要があるが、“依法国治”の基本方針を進める 上で、中国の政治制度、歴史伝統、思想文化、価値体系等の国情に相応しくない思想理念、価値観であって、中国の特色ある社会主義法治国家建設の障害になる ものについては、断固として決別しなければならない。」 胡は、中国において共産党は、全人民の利益を代表するのであって、共産党自身にはいかなる特別の利益も存在しないとい う。そうであるから恐らく「中国共産党が、法により中国全土を治める」ことは、「中国人民が法により中国全土を治める」ことに他ならないという議論になる のであろう。 しかし、そうであろうか。共産党を構成しているのは、共産党員である。全ての共産党員が何ら個々人の利益を考えていないというように清廉であろうか。「否」という回答になりはしないか。 江利紅(中国江西財経大学法学院副教授)は、中国における法治主義の実現に向けて、(1)共産党も「依法執政」(法によ る執政)をするようにし、(2)行政権の法的統制をし、(3)司法改革として、@司法の独立、A違憲審査制の導入(現在、中国に違憲審査制は存在しない し、憲法訴訟も認められていない。)をすることなどが必要であるという指摘をしている(江利紅「現代中国における“法治主義”とその実現に向けた課題」比 較法雑誌、日本比較法研究所、第45巻、第1号、372-382頁)。 中国が「法の支配」に向けて踏み出すのはいつのことになるのか。
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