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(2012年3月28日)
上海海事法院によると、2011年に1,981件の海事および商事事件の審理をしたが、契約条項の翻訳ミスが紛争の原因になったと考えられるものが少なくとも5%もあったという。これらは、何れも回避可能な単純なミスであるが、契約当事者に重大な損害をもたらす結果となっている(China daily 2012年3月23日)。 なぜ、かかる問題が起こるのか。上海海事法院の裁判官は、次のことを指摘している。 法律文書の作成および翻訳を弁護士などの専門家に委任しないことに問題の所在がある。専門家に委任する場合、この経費は高くなる。そこで、契約当事者である企業は、一般の翻訳業者に法律文書の翻訳を依頼することが多くなり、ときには学生アルバイトを利用するという。 しかし、法律文書、とりわけ契約書には法律上の専門用語が少なくない。翻訳専門の業者であっても、国際取引契約書を翻訳する業務に長けている訳ではない。かかる知識がないと正確な翻訳がおぼつかないものである。国際取引契約書を翻訳できるレベルの者であれば、彼らは企業の法務部門に勤務している。この方が所得もより良いからである。従って、翻訳業者に依頼したものに誤訳が頻繁に見られ、これが紛争を引き起こしている。 さて、以上の上海海事法院の裁判官の指摘は、日本企業が対中取引において契約書を作成し、翻訳する場合にも該当することではないだろうか。 また、法律文書の翻訳とは異なるが、日本で次のようなケースもしばしば目にする(あまり具体的に指摘することがためらわれるので、以下、抽象的な表現に留める)。 中国は、今、積極的に法整備を進めている。非常に多くの法律が制定や改正され、公布されている。このとき法律の条文を如何に解釈するのが適当か判然としないことがある。しばしばコンサルタントらが当該条文の解釈についてセミナー等で解説しているが、見当違いの解釈をしていることが多いと感じられる。 条文解釈には、この法律の立法趣旨を理解し、さらには上位法の内容を理解していることが求められ、その上で当該法律の条文解釈が成り立つものである。ところが、単に条文を独善的または悪意に解釈していることが多い。法律の名宛人が誰であるかを考えず、条文の主体(主語)を誤って翻訳しているものも少なくなく見受けられる。 契約書の作成および翻訳について、(1)日本語・中国語として成熟していなくても、さらには明らかな誤訳があるかもしれなくても、コストを考えると紛争に結びつくリスクの方が低いと考えて専門家に委任しないものとするか、(2)リスクを未然に回避するために高額ではあっても専門家に委任するかは、企業に委ねられる。
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