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Last Update:2012/5/09
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第211回 所得格差改革と立法

(2012年5月09日)

  『人民論壇』誌が、「当面の最も期待される改革は何か」と市民に対して調査したところ、「所得分配改革」を挙げたものが65.9%あり、第一位であった(新華網 2012年5月4日)。
  温家宝は、「所得分配を公平にすることは、社会の安定の基礎である」と述べている。このために多くの改革も行われている。例えば、最低賃金の引き上げ、賃上げのための集団賃金協議制度の導入、財政・税制改革、公共サービスの充実、社会保障制度の整備などがある。何れも改革の途上であるとは言うもののある程度の効果はあげていると評価されるようだ。
  しかし、上述の改革によって、根源的な問題は解決されるのであろうか。所得分配格差が生じたのは、市場競争が激しくなり、優勝劣敗の結果であると言えるのか否か。多くの市民は、このようには思っていないのではないか。社会主義市場経済体制が不完全であることに問題があるとの認識が強くありそうだ。
  つまり、市民が不満に思っているのは、所得格差そのものもあるが、それ以上に富裕層の富の来源に疑問を持っているということである。別の調査では、中国の不安定要素は何かとの問いに、「腐敗した官僚主義」を選択した者が所得格差の存在をあげるよりも10ポイント以上も多かった。
  そこで、今、政府は所得分配改革のマスタープランを策定し、市民に示さなければならない時期に来ている。さらに必要なのが、このための新たな立法である。 
  では、この立法はどのようなものになるのか。政府は立法過程に市民の意見を取り入れて利害関係者の調整を図りながら行おうとしている。そうすることで民主的立法がなされたことになると考えている。最近では、多くの立法過程で必ず草案が公表され、パブリック・オピニオンが求められている。
  しかし、これはどうも市民から見ると民意を反映したという証拠作りに利用されているに過ぎないと判断されているようだ。市民の意見が採用されるのか否か、採用されなかったときの理由は何かなど何れも明確な説明がなされない。政府は、市民は感情的、感覚的な意見を述べ、時には法治理念と衝突する意見もあると抗弁している。
  市民(平民)は、法は為政者が統治秩序を維持するためのものであるとして厭うという法文化の伝統も中国にはあるのだろうか。市民のパブリック・オピニオンが採用されなければ、ますますこの意識が強くなりそうである。所得分配の改革には、まず、立法過程において本当の意味での市民参加を得る政府内部の改革が必要である。今年下半期に中国共産党第18回会議が開催されるが、このとき「走基層」(人民の中に入って行く)が共産党員に求められ、また、共産党員の合い言葉のようになっている。しかし、社会の調和のとれた安定は、共産党の基盤を弱体化させないためのものであるとすれば、所得分配の改革のハードルは非常に高いということになりそうだ。

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