コラムに関する感想
お問い合わせ
Last Update:2012/7/11
トップチャイナウォール
コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第215回 iPad訴訟とデューデリジェンス

(2012年7月11日)

  アップル社と深圳唯冠科技が、iPadの商標を巡って広東省高級人民法院の控訴審で争っていた事件は、アップル社が深圳唯冠科技に6000万ドルを支払うという内容で和解に達した。
  アップル社にとって中国は、米国に次いで世界で2番目に大きな市場である。2012年第2四半期についてみると、中国市場のアップル社への貢献度は、売上げの20%、790億ドルであったという(新華社 2012年7月2日)。iPad は中国国内のタブレット端末の市場において70%以上のシェアを持っている。従って、アップル社としては、相当の譲歩をしても、早期に紛争を終わらせたいと意向が働いたものであろう。
  しかし、中国でアップル社を巡る訴訟は終わらない。
  江蘇省の江蘇雪豹日化有限公司(以下、「雪豹公司」という。)が、商標権侵害の訴えを上海市浦東新区法院に起こし、これが受理された。7月10日には新たな訴訟の開廷審理が行われる予定である。
  雪豹公司は、アップル電脳貿易(上海)有限公司が商標権を侵害したとして、(1)商標の使用差し止め、および「雪豹」の商標を使用している商品の廃棄、(2)インターネットおよび全国紙上に謝罪広告を掲載すること、(3)50万元の損害賠償を請求した。
  雪豹公司は、1994年から42の商品の商標に「雪豹」を登録している。2008年には中国馳名商標に認定されている。雪豹が、中国で著名な商標であることは事実である。しかし、雪豹の主な商品は、歯磨き粉、化粧品などの日用化学品が中心であり、コンピュータ・ソフトが商品として存在する訳ではない。また、雪豹が行った商標登録は、中国語である「雪豹」とピンイン「Xue Bao」であって、Snow Leopardとしての商標登録はしていない。
  そうであるので、アップル社にとって、50万元という金額は大きくないものの、Snow Leopard(雪豹)の使用差し止めは許容できないだろう。どのような闘い方をするのか。
  なぜ、アップル社を巡る訴訟が起こるのか。1つの原因として、アップル社の中国事業展開におけるデューデリジェンスが不適切であったのではないかということが指摘できる。
  iPadの商標を巡る訴訟において、アップル社は、訴訟において2010年に台湾唯冠から3万5000ポンドで全世界での商標権を購入したと主張している。これに対して、深圳唯冠科技は、中国での商標権はアップル社が購入した分に含まれないと主張していた。
  ある中国人弁護士は、「アップル社には、台湾と大陸は同じ国であるという認識があった。台湾企業から商標権を取得すれば、当然に大陸も含まれていると考えていた嫌いがある。」という。アップル社は、中国事業展開について初心者であった。アップル社における担当者の無知もあったのではないか。
  国際取引を行うに際しては、さまざまなリーガルリスクおよび取引先企業の信用や価値を事前に調査するデューデリジェンス(Due diligence)が重要である。これらの事前調査を怠ると、契約締結後に思わぬリーガルリスクがもたらされる可能性が高くなる。Snow Leopardの中国国内における販売に際しても、デューデリジェンスに不備があったことを否定できそうにない。

※サイトの記事の無断転用等を禁じます。


© Copyright 2002-2011 OBC-China Reserved.  
"chinavi.jp" "ちゃいなび" "チャイナビ" "中国ナビ"はOBC-Chinaの商標です。
s