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(2012年7月25日)
中国経済が大失速しているという論調が多い。世界経済に与える影響が大きいだけに、中国国内だけにかかわらず、世界各国が今後の動向を気にしている。中国自身も世界経済に対して社会的責任を担っていると考えている。 そうであるところ、5、6月になって中国経済に多少明るさが見えてきた(方烨「総需求顕現回暖」経済参考報 2012年 7月20日)。このようにいうのは、中国経済を見る場合の2大要素として、(1)民間最終消費、(2)固定資産投資の動向があるが、この2大要素の伸び率 が回復しつつあるようだからである。 なぜ、(1)民間最終消費、(2)固定資産投資の動向をもって、中国経済を見る場合の重要な要素と考えるのか。第一 に、中国に限らず民間最終消費のGDPに占めるウェイトが高いことがある。欧米先進国の平均民間最終消費比率は約70%であり、欧米ではこれがGDPに大 きく影響している。日本、台湾、韓国の平均民間最終消費比率は約60%である。ところが、中国は、1990年の50%からだんだん下がってきており、 2003年には固定資本形成比率(当時約41%)と逆転し、2010年には34%程度にまで下がっている。中国経済を回復軌道に乗せるには、民間最終消費 を増やす必要がある。第二に、固定資産投資のGDP貢献度は50%にのぼるからである。 民間最終消費が6月に対前月比1.1ポイント増えた。上半期に都市住民の1人当たり可処分所得が対前年同期比9.7%増え、農村の1人当たり現金収入も同12.4%伸びた。就業者数も増えており、下半期も民間最終消費は増えそうだという。 固定資産投資は、1−6月は、1−5月に比べて0.3ポイント伸びた。基本建設投資は、6月に対前年同期比18.5%伸び、前月比7.9%増えた。新規プロジェクトの着工予定もあり、資金が回転し始めそうだという。 なお、上述の経済参考報は、純輸出の伸びていることも指摘し、3大要素として指摘しているのであるが、純輸出のGDPへの貢献度は数%しかなく、実際には考慮する必要はなくなっている。中国は、内需を拡大しなければならない経済構造になっている。 中国経済に明るい兆しが見え始めたとはいっても、懸念がない訳ではない。小島麗逸・大東文化大学名誉教授は、「中国経済 を見る場合、GDPが何%成長したかよりも、GDPに占める民間最終消費と固定資産投資総額のそれぞれの比率、すなわち、この構成比がどうなっているかを 見ることが重要である。中国は、2000年から“黄金の10年”というが、民を豊かにせず、投資で経済を成長させた奇形な経済である。」と指摘している。 中国は、リーマンショックの際に経済をV次型に回復させるために4兆元を投じたが、この内の多くが住宅投機に流れ、投 機経済が発生した(小島)。政府によらない民間企業の固定資産投資を増やす手段を講じ、民間最終消費のGDPに占める割合を増やす構造を形成できるか否か が重要な課題となる。
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