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Last Update:2012/8/08
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第217回 根強い地方保護主義

(2012年8月08日)

  上海市は、「上海市著名商標認定および保護弁法」を制定し、2012年5月1日から施行している。
  この弁法は、上海市内の企業・自然人の商標であって、同市の市民に親しまれている商標を著名商標として認定し、保護しようとする目的で定められたものである。上海市外の企業・自然人には、上海市において商標登録する権利は認められない。上海市企業の商標が、他省市企業により侵害されないように保護しようとするもので、国の商標法により保護される以上に優遇し、保護する。地方においてのみ認識されている商標を保護しようというもので、極めて地方保護主義的な規定である。
  ところが、同様の弁法(地方立法)は、ほかに北京市、江蘇省、河南省、湖北省、山東省など20以上の省市で制定、施行されている。北京の大成法律事務所の田漢哲・パートナー弁護士は、「地方政府は、地方企業が保有する著名商標を保護するとの名目で、意図的に著名商標を“育成”する商標戦略を掲げていて、各地方間の対立・競争はますます激しくなると思料する。」と述べている。
  中国には、当然ながら国家レベルの商標法および反不正競争法(5条2項に著名商標に関する規定がある。)がある。各地方が制定した弁法には、国が定める商標保護レベルを超える内容が見られ、立法上の矛盾がある。
  このような地方政府の立法行為は、本質的には非市場手段を利用して、所轄の地方企業を保護し、不正競争を行う行為に該当し、著名商標保護の立法目的からかけ離れたものである。そうであるので、地方の著名商標の認定・保護規則の内容上、商標法および反不正競争法の規定と抵触する部分は、法的効力がないと判断される。
  しかしながなら、現時点において中央政府は、商標法および反不正競争法の範囲内で、未だに大きな問題が起こっていないことから、これを黙認する立場をとっている。
  中国の法体系による法規の優先順位は、憲法>法律>行政法規>地方法規=部門規章と定められている。このとき、実務上、各法規間で矛盾が生じることがある。
  例えば、江利紅・江西財経大学法学院比較法研究所所長副教授は、以下のような事例があるという。1994年2月1日に国務院が制定した「婚姻登録管理条例」は、強制的婚前健康検査の証明を結婚登録の前提として要求していたが、2003年7月30日にこれを改正し、「婚姻登録条例」を制定した際に強制的婚前健康検査の規定を廃止し、自発的婚前健康検査を実施するとした。しかし、自発的婚前健康検査の比率が低いなどの現状に直面して、黒龍江省人民代表大会常務委員会は、黒龍江母子保健条例を改正し、「強制的婚前健康検査」の規定を増設した。これによって、国の法規と地方法規の衝突の問題が起こった。
  地方政府には、国の規定と反して、自らの地方に有利な政策、法規を定めようとする傾向があり、なお根強い地方保護主義があることが懸念される。

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