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Last Update:2012/9/26
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第220回 GDP主義と道徳の崩壊

(2012年9月26日)

  最近、中国で道徳意識=モラルが低下ないしは崩壊しているという論文が見られる。例えば、鄭永年「中国的GDP主義及其道徳体系的解体」(中国人民大学民商事法律科学研究センターのホームページ“中国民商法律網”)や何懐宏=張天潘「社会道徳不能依附于政治」(南方都市报、2012年7月1日)などである。
  鄭は、過度にGDPを追求したために、負の社会的効果が発生しているという。負の社会的効果とは、所得格差、社会の文化、労働者の権利剥奪、環境悪化などであるが、これだけでなく、さらに道徳の崩壊があると指摘している。
  何=張は、近年のモラルの低下は著しく、このことは例えば、小悦悦事件(2歳の女児が道路の中央でワゴン車にはねられたにもかかわらず、通行人は誰も見向きもせず、直後に別のトラックにもはねられ死亡したという事件)や食品安全・詐欺などの商業倫理の低下として顕在化しており、今日の道徳は不安定であるという。
  リチャード・ウィルキンソン(Richard Wilkinson、米国の公衆衛生学者)は、『格差社会の衝撃』(How economy inequality harms societies)において、一国における1人当たりGDP所得格差が大きい国ほど問題発生率が高くなり、社会に悪影響を及ぼすと指摘している。問題発生率は、平均寿命、子供の学力、乳児死亡率、殺人発生率、囚人の割合、10代の出産率、人を信用できる率、肥満率、薬物・アルコール依存症、精神疾患の率などで計られる。
  今日の中国は、所得格差が著しく拡大していることは周知の通りである。リチャード・ウィルキンソンの理論が中国でも適用しているということがいえそうである。道徳意識=モラルの低下も数値化できないにしてもウィルキンソンのいう問題に入れられそうである。
  全国総工会と中国科学院心理学研究所は、職場におけるストレス調査を共同で実施した。全国20都市、2039人に対する調査であったが、調査対象者の63.3%がストレスを感じ、うち13.5%が非常に強くストレスを感じていた。13.5%の人のストレスは、不安、不眠、鬱状態として発現し、メンタルヘルスを必要とする人が増加しているという(China Daily 2012.09.12)。職場において、このようなストレスを感じることが多くなっていることも大きな社会問題として捉えられる。
  さて、道徳意識=モラルの低下ということでは、中国における格差社会の出現によるだけでなく、直近100年の中国の革命の歴史の影響もあるだろうか。何=張は、以前の中国人社会の関係の主流は、伝統的五倫(父子、君臣、負債、長幼、朋友)だけであったが、今、第六倫=知らない人との関係、人際関係が新たな社会関係として存在するようになり、この経験がまだ不十分であるという。さらに、この100年は、革命、闘争、造反の伝統(歴史)に終始している。闘争とは、言葉による暴力、身体への攻撃をいい、ここに妥協、交渉、対話、寛容により問題を解決するという意識はなく、強烈な分裂意識、敵と味方の二大陣営に分類し、すべての人が平等ではなく、一部の人(敵対する人)は排除しようとする意識が働くという。
  何=張は、今日型道徳の特徴は、動員型道徳、すなわち自発的なものではなく、政府から付与された道徳意識であるといい、民衆は、道徳を喪失したともいう。鄭は、道徳戦士(暴力による道徳)はいらないといっている。

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