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Last Update:2012/8/22
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第218回 電子商取引の過激な競争と家電市場の課題

(2012年8月22日)

  京東商城や蘇寧易購などの家電卸企業が、電子商取引で過激な値下げ合戦をしていることが報じられている(例えば、経済参考報 2012年8月17日など)。京東は、蘇寧や国美の価格よりさらに10%値引きして販売するという宣伝をし、利益を度外視したダンピング販売も行われているのではないかともいわれている。
  そこで、この電子商取引における過激な値下げ合戦を巡って、さまざまな議論が沸き起こっている。現時点においては、この値下げ合戦は、当面は赤字を覚悟の上で製品を販売し、競争相手を市場から排除し、独占的地位を確保しようとする競争行為ではないと考えられ、独占禁止法違反が問われているということはない。
  では、なぜこのような競争が行われているのか。中国の家電製品を含めた電気・電子製品の輸出は、明らかに減退しており、内需拡大がメーカーの喫緊の課題となっている。このような環境において、消費者を確保する必要があるところ、製品価格の値引きが最も有効な手段であると考えられる。当然に卸小売企業も消費者獲得が必要である。そこで、このような値引き合戦が始まった。
  しかし、このような競争には、企業戦略上の問題および当面の中国の経済構造上の問題がありそうである。
  中国政府は、国際競争に耐え得るブランドの形成を目指しているが、このブランドをどのように形成するのか。企業は、外国企業の著名ブランドを買収し、また価格の安さをもってブランド力を確保しようとしている。これは、「中国の消費者の大多数が、現在もなお商品を購入しようとするときの最大の関心事は価格にあり、サービスにはなく、この傾向はしばらく改められそうにない。」(梅新育・商務部研究員「商務競争応告別“超女式営銷”」環球時報 2012年8月17日)という判断があるからだろうか。
  かかる企業の販売戦略は、短期的には一定の効果を上げるかもしれないが、長期的にはどうか。長期的な視野に立てば、生産管理や研究開発に力を注ぎ、マーケティング、物流システム、サービスなどのソフト面を重視する必要がある。
  商務部は、過激化する値下げ合戦に対して、8月16日に「(企業は)管理およびサービス・レベルを向上させ、積極的に消費者およびメーカーの適法な権利を保護し、企業の社会的責任を果たさなければならない。」という談話を発表した。
  商務部が制定した「商務領域標準化管理弁法(試行)」(2012年5月8日発布)が7月1日から施行されている。この弁法は、卸小売、ホテル・レストランや商務サービス、倉庫・物流など各領域で統一された規範を定めるというものである。今後、この弁法に基づき、具体的な規範が策定されることになる。すでに商務部は、「電子商務モデル規範」、「インターネット取引サービス規範」などの基準を制定しているが、今回の電子商取引で過激化値下げ合戦が発生したこともあり、さらに電子商取引における当事者間の権利義務、詳細な基準を定めるために「電子商務経営販売運営規範」、「インターネット店舗信用評価基準」、「インターネット団体購入企業管理規範」などを制定することを決定した。
  今回の電子商取引の過激な競争は、家電市場の課題を顕在化するだけでなく、今後の中国企業の経営戦略のあり方、当面の経済情勢下において内需拡大をしていく場合に存在する課題および今後の規範化の方向性を考える上での参考をなる事例といえそうだ。

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