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(2012年10月10日)
中国企業との国際商事契約において、紛争発生時の解決法としてごく一般的に仲裁によることが約定される。仲裁は、国際商事紛争を解決するために、最も利用される方法であり、国際条約があり、中国もこれに加入しているからである。 国際条約とは、「外国仲裁判断の承認および執行に関する条約」(1959年6月7日発効。いわゆる“ニューヨーク条約”)である。中国は、1986年12月2日に全国人民代表大会常務委員会によりニューヨーク条約に加入することに関する決定がなされ、同年12月13日に全国人民代表大会常務委員会によりニューヨーク条約に加入についての批准がなされた。さらに、ニューヨーク条約加入後、最高人民法院によって「我国が加入したニューヨーク条約の執行に関する通知」(1987年)が発布され、中国は外国仲裁判断を拘束力のあるものとして承認し、かつ、その判断が援用される領域の手続規則に従って執行するものとするとしている。 ところが最近、中国の法院において外国仲裁判断の承認・執行拒否判決が下されることが増えている。最高人民法院によると1987年から2007年までに12件の外国仲裁判断の承認・執行を拒否したという(外国仲裁判断の承認・執行申立件数が何件あったのかなどの統計は明らかにされていない。)。 陳衛旗は、「仲裁与法律」誌(中国国際経済貿易仲裁委員会編、2012年第116輯)において、以下の事案を紹介している。 米国会社がニューヨーク条約に基づき、1997年4月21日に南寧市中級人民法院(以下、「南寧法院」という。)にロンドン糖業仲裁協会の「1997第107号判断書」の承認・執行を申し立て、中国広西某外貿公司が当該判断を執行し、かつ、判断の不履行から生じた損害131万9640ドルの賠償およびその利息の支払いなどを請求した。ところが、南寧法院が承認・執行を認容しない判決を言い渡した。最高人民法院がこの判決を差し戻したが、南寧法院が最終的に承認を下すまでに7年間を要した。実は、今なお執行はされていないという。 その他にも同様の事案がありそうである。このような事案があることは、中国の現行の外国仲裁判断に対する司法審査制度に欠陥があるからである。外国仲裁判断の承認・執行申立があった場合の審査基準に関する規定が法律において明確に規定されていないという欠陥がある。そこで、地方が「法に明文の規定がない」ことを理由に自らの自由裁量権を拡大させるという現象を生んでいる。 中国国内で仲裁や裁判で争った場合には、なおさら国益、地方益が優先され、外国企業に不利な判断が下されることが多い。外国で仲裁判断を得ても中国で承認・執行されない。このようなことが多くなれば、中国企業と国際契約を締結する外国企業に不安や不信感を与え、中国が国際取引を増やす上でも不利になると考えるがどうなのだろうか。
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