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Last Update:2013/07/24
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第240回 高齢者権益保障法:“常回家看看”の訴え

(2013年07月24日)

  江蘇省無錫市北塘区人民法院は、2013年7月1日に77歳の女性が、疎遠になった娘夫婦に扶養を求めていた訴えを認容し、経済的負担のほか2カ月に一度、伝統的祝祭日(元日、端午、重陽、中秋など)には2回以上は母親を訪ねよ(常回家看看)という判決を言い渡した。
  これは、2013年7月1日に改正施行された「高齢者権益保障法」(老年人権益保護法)を根拠法とした初の判決である。この法律によると、子供は、父母が60歳になったときには経済的支援、生活の世話、かつ精神的な支援をしなければならないと規定している。
  77歳の原告女性は、2012年8月に娘家族と不和となり、同女性が家を出た。しかし、娘夫婦が定期的に同女性を見舞い、借家の家賃と病院医療費を支払うように法院に訴えを提起していた。
  この種の訴え、同様の判決は、初めてではない。数年前にも北京市で同様の訴え、判決が言い渡されている。黒龍江省大慶市でも80歳台の老夫婦が、9人の子供による扶養が十分ではないと裁判所に訴えを起こしたケースがある。老夫婦は、「食べ物に不自由をしている訳ではなく、着る物に不自由をしている訳でもないが、子供が地方で仕事をしているので、ほとんど帰省してこない。孤独を感じ、寂しい思いをしている。」と訴えた。裁判官は、9人の子供を出廷させ、9人はそれぞれ毎月、老夫婦に扶養費100元を送金し、3ヵ月に1回は実家に帰省するという調停を行った。
  「婚姻法」には、子供は老父母を扶養する義務があるとの規定がある。この扶養義務は、単に扶養費を支払えばいいというものではなく、精神的にも老父母を見舞い、関心を払い、面倒を見ることを含むと解されている。
  本コラムの第204回で「“和諧家庭”の概念」(2012年2月08日)について叙述したことがある。今回の裁判と共通項がある。高齢者権益保障法に対しては、賛否ある。法律に反対する者は、法の規定は主観的なものであり、法規範としてではなく、このような問題は道徳問題であると言う。中国における道徳観念が崩壊しているということになるのだろうか。
  2012年に子供と別居している老人の数は、6200万人いる。これは、老人の3人に一人の割合である。益々深刻な問題となりそうだ。
  争点は異なるが、この問題に関して、中国進出企業にとって懸念されることがある。高齢者権益保障法に「企業は、老父母と別居している従業員に対しては、20日の親族訪問休暇を与えなければならない。」という規定があることである。
  6年越しで検討されている保険制度に「課税繰延年金保険」(個人税収逓延長型養老保険)がある。これは、就労年齢時に毎月1,000元の所得を企業年金と商業年金保険に預けて投資を行うことを認め、この投資利益である一時所得にはその時々の課税をせず、退職後の年金受領時に低税率で納付することができるようにしようというものである。高齢者の権益保護ということでは、このような年金制度改革も不可欠になる。

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