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Last Update:2013/09/11
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第243回 上海自由貿易区設置の狙いとTPP

(2013年09月11日)

  上海で自由貿易区の実験がいよいよ始まる。今、中国政府が上海に自由貿易区を設立する狙いは何か。
  上海自由貿易区は、面積約28平方キロメートル、貿易関税の減免や、通関や検疫にかかわる手続きの簡素化、物流や商業、電子商取引企業に対する優遇策の供与、金融関連規制の大幅な緩和がなされることになりそうである。
  さらに、西側先進資本主義国の国際取引ルールに適った市場制度の仕組みとして、(1)サービス貿易の開放、(2)直接投資における外国企業の権益保護の強化策として国際商事仲裁制度の一層の整備、(3)労働者の基本的権利保護として、ILOが認める5つの基本原則(結社の自由、団結権及び団体交渉権、強制労働並びに児童労働の禁止、雇用差別の撤廃、同一価値労働同一賃金)の遵守などについても整備されることになりそうだと言われている。
  米国の「僑報」紙によると、上海自由貿易区の設置は、TPP交渉を睨んだもので、国際貿易の新しいルールに適合させようとするものであるという。上海自由貿易区の実験は、中国のグローバル戦略を担うもので、将来出現すると思われる問題についての道筋、対応を予め準備、経験しておこうという考えがある。この経験を通じて、二国間の自由貿易区協議、日中韓の自由貿易区、中国・EU自由貿易区、TPP交渉の糧にしようとしている。人民元の国際化ということも念頭にある。
  上海自由貿易区の実験がうまくいけば、これを徐々に中国全国に拡大していけばいいし、仮に失敗した場合には、極めて狭い範囲内に影響をとどめることができるという判断もある(邵宇・東方証券チーフエコノミスト Wall Street Journal 2013年9月6日)。
  中国のあるシンクタンクは、この実験が成功すれば、中国は各国との二国間協力を拡大し、米国が中国を孤立させようとしている企図を打破することができ、米国と対等の地位を築き、中米で世界経済における分業体制を再編し、利益のバランスを手に入れることができると述べている。
  さて、この自由貿易区を成功させるには、中国経済が直面する問題に確実に対処しておくことが不可欠ではないか。直接的に自由貿易区の経営とは関係ないが、生産過剰、不動産バブル、地方債務などの問題がある。いずれも楽観的な観測が中国国内外のエコノミストから示されているが、かかる問題が生じた本質を軽視しているのではないか。中国経済は、中長期的にリスクを抱えている。
  中国は、世界で通用する一流企業を育成することも欠かせない。中国企業連合会のデータでは、中国で国際的な経営能力を本当に有していると言える企業は25社しかない。この判断基準は、企業の営業収入に占める海外の割合が30%以上あることであるが、中国のトップ100の多国籍企業でも平均14%しかない。世界の多国籍企業トップ100は61%である。


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