コラムに関する感想
お問い合わせ
Last Update:2013/12/26
トップチャイナウォール
コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第250回 環境公益訴訟の意義と課題

(2013年12月26日)

   PM2.5などに代表される中国における生態環境の悪化状況については言うまでもない。2013年12月10日から13日まで北京で開催された中央工作会議においても、これから強く意識をしなければならない問題として、経済成長率の鈍化、一部産業の生産過剰、食糧安全保障、地方政府債務、構造的就業矛盾、食品薬品品質、社会治安などの問題と並んで、生態環境悪化の問題が指摘された。  
  生態環境を保護し、改善しようとする試みは幾つもあるが、その1つに環境公益訴訟という制度の充実がある。ところが、制度はあるものの、現実には訴えがほとんど受理されていない。環境法益訴訟が定着しないのはなぜか。  
  中国には各地に95カ所の環境保護法廷が設置されている(法制日報 2012年11月20日)。各地によって法廷の名称は異なるが、環境問題に関する訴訟を専門に審理する法廷である。しかし、例えば全国で最初にこれが設置された遼寧省では設置以降2011年末までに1件の訴えも受理されていない(http://www.chinacourt.orgより)。  
  法制度上の不備、実務上の問題がある。  
  法制度上の問題としては、原告適格の制約があるということが最大の問題である。  
  2013年1月1日に施行された民事訴訟法は、公益訴訟に関する条文を追加し、法的機関および関係団体は、環境汚染、大衆消費者の適法な権益の侵害などにより社会公共利益が侵害された場合には、公益訴訟を提起する権利があると規定した(55条)。  
  この55条で、公益訴訟の主体について法的機関および関係団体としているが、この概念について立法上の解釈がなされていない。2010年に環境保護部は「環境保護社会団体の秩序ある発展を育成し、導くことに関する指導意見」を発布したが、これには国に登記されていないNGOも含まれる。これらの団体が民事訴訟法55条が規定する関係団体に含まれるか否か明らかでない。例えば、2013年3月に中華環境保護連合会が山東省のイ坊楽港食品株式有限公司の第三商品養豚場の水質汚染について訴えを提起したが、原告適格がないとして訴えを却下されたという事案がある。  
  実務上の問題としては、訴訟コストの高さがある。訴訟コストという場合、一般には裁判受理費用、弁護士費用、法廷外費用などがある。法廷外費用で大きいのは、鑑定費用である。これは、一般に少なくとも数十万元、多い場合には数百万から数千万元もかかる。2011年の雲南省のクロム鉱渣の不法投棄による環境汚染訴訟では、鑑定機関が700万元の鑑定費用見積もりを出したため、原告として訴訟を準備していたNGO団体「自然の友」は、訴えを取り下げるしかなかった(陳亮「環境公益訴訟“零受案率”之反思」法学 2013年第7期)。  
  上述の問題には、地方保護主義や部門保護主義という問題も絡んでくる。そこで、今、検討されているのが、検察機関が環境公益訴訟に参与する方式である(次回のコラムでこの問題について紹介させていただくこととしたい。)

※サイトの記事の無断転用等を禁じます。


© Copyright 2002-2013 OBC-China Reserved.  
"chinavi.jp" "ちゃいなび" "チャイナビ" "中国ナビ"はOBC-Chinaの商標です。
s