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Last Update:2014/01/09
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第251回 検察機関による環境公益訴訟の可能性と問題点

(2014年01月09日)

  前回のコラムで叙述したが、2012年8月に採択された民事訴訟法55条は、「環境を汚染し、多数の消費者の適法な権益の侵害など社会公共の利益に損害を与える行為に対して、法が規定する機関および関係団体は、人民法院に訴訟を提起することができる。」と公益訴訟に関する条項を加筆した。  
  訴訟を提起できる主体である「法が規定する機関および関係団体」が具体的に如何なる機関であるかは明確になっていない。しかし、検察機関がこの主体の一つであることは明らかである。現実にこの改正民事訴訟法が施行される前から検察機関による環境公益訴訟が行われてきている。  
  2008年以降2012年11月までに検察機関が原告となった訴訟が16件ある(孫洪坤=陶伯進「兼論“民事訴訟法”第55条之完善」東方法学、2013年第5期。同論文は、以下のサイトで閲覧可http://www.civillaw.com.cn/article/default.asp?id/=59498)。  
  一般に訴訟を提起する場合には、直接的利害関係の有無が問題となり、原告適格がなかなか認められないところ、検察機関がこれを担うことには意義があると考える。しかし、検察機関にこれを委ねてしまえば良いかというと否である。地方保護主義、部門保護主義、さらには人治主義と言う問題があり、検察機関が原告となることに二の足を踏むことがある。環境行政は環境保護局が所管し、環境汚染をしている企業は国有または地方国有企業であることが多く、実質的に共産党による企業統治が行われているものも少なくない。  
  習近平は、共産党が「法の支配」を受けることを拒否した。そうであれば、共産党の指導による政府が立案し、実行する産業政策を同じ行政機関や検察機関が批判することは許さないということになりかねない。  
  共産党の権威主義は、法による支配を阻むものであり、市民をして法律を信用させなくすることにもなりかねない。この結果は、社会の秩序を乱し、公正かつ公平な商取引行為が破壊されることにもなる。  
  公益訴訟の範疇に入ると考えられるものには、森林破壊、水質汚染、大気汚染、海洋汚染、騒音など環境問題だけではない。他に食品安全、歴史・文化遺産の破壊などもある。このような問題における訴訟主体として直接的利害関係を如何に定義するのかは難しい問題である。
  市民参加型の公益訴訟を広く認めてゆくことが必要ではないか。中国における法の支配を定着させる上でも大切なことである。

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