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Last Update:2014/03/25
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第256回 社会主義の核心的価値観と日本企業に対する戦時強制連行訴訟

(2014年03月25日)

  中国共産党中央弁公庁は、「社会主義の核心的価値観を育成し、実践することに関する意見」を発布した。
  核心的価値観とは何か。一言で言えば、富強、民主、文明、和諧、自由、平等、公正、法治、愛国、敬意、誠意、友誼であり、国家、社会、公民が価値目標を明確に共有し、遵守しようということである
  これも抽象的で分かりにくいが、習近平国家主席は、中共中央政治局第13回集団学習の席上、中華の優秀な伝統文化思想に精通し、愛国主義を核心とする民族主義精神を高揚することであると述べている。
  中国人民抗日戦争記念館副館長の李宗遠は、愛国主義と狭量な民族主義との違いについて、後者は、(1)国家利益を至上とし、国際ルールを遵守せず、(2)民族の特殊性を強調し、人類共通の道徳を顧みないことであると述べている(人民網 2014年2月25日)。
  この例として、李は、日本による中国侵略戦争がその一つの例であり、また、日本の1万円札の顔になっている福沢諭吉も極端な民族主義を吹聴し、他国侵略を主張し、他国の資源及び財産を略奪し、他国の領土および主権の統一妨げたことからすれば、朝鮮半島、中国民族の敵であると言う。従って、中国は歴史から経験と教訓を学ばなければならないと主張している。
  中国人元労働者らによる三菱マテリアルなどへの損害賠償請求の訴えが北京市中級人民法院に受理されたことが3月19日の日本の新聞で報道された。受理されないと思っていたので多少驚いた。中国法院の訴え受理は、(1)尖閣問題以降の日中関係の悪化、直接的なきっかけとしては安倍首相の靖国参拝、(2)韓国の裁判の影響(韓国が行っていて、中国がなぜ行えない。)、(3)中国国内事情、(4)法院の内部的考え(多くの中国市民やマスコミの雰囲気にも配慮)などの要因から、判断がなされたものと考える。
  市民の訴えとはいっても、法院がこれを受理するか否かは中国共産党および政府の判断がある筈で、この判断は外交交渉のカードに利用しようという国家利益に基づくものであり、また愛国主義高揚ということになるのではないかと考えられる。そうであれば、訴えの受理は、狭量な民族主義ということにはならないのだろうか。また、日中共同声明という二国間の取決めをどのように考えるのか。国際ルールがあるとは言えないにしても、違和感がある。
  今回の中国の訴え受理に対して、日本企業の投資流出、新規投資抑制効果があると考えられる。この点について、習近平国家主席および中国政府は、無頓着である(安倍首相も日本企業の中国ビジネスに関しては全く無頓着である。)。日本企業にとって中国は大きな市場であることに変わりはないが、中国(=習近平)にとって日本企業のウェイトは、貿易でも投資でも随分と低下しており、日本企業がいなくなってもいいと考えていると思われる。
  戦争賠償問題は、日中共同声明により政府間では決着済みと中国政府も認めるところであろう。これまでの中国国民の訴えについては、黙していただけで、請求権はないということは言っていなかった。しかし、現実には抑制してきたところ、今回は被害者である国民個人の請求権を中国政府としては剥奪しないという立場に立ち、この意味で体重移動があったと言えそうである。

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