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Last Update:2014/09/10
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第267回 国有企業改革の方途

(2014年09月09日)

  筆者は、20年以上前になるがアジア経済研究所の依頼でニコラス・ラーディ(Nicholas R. Lardy)の著書“Foreign Trade and Economic Reform in China, 1978–1990”(Cambridge University Press, 1992)の書評を書いたことがある(書評:N・R・ラーディ著『中国の対外貿易・経済改革;1978〜90年』アジア経済、アジア経済研究所、1993年6月号)。 
  ラーディは、現在、ピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics)のシニア・フェローであるが、近刊の“Markets over Mao:The Rise of Private Business in China”(中国語で「民進国退」)が注目を集めているようだ。
  一般に今の中国では国有企業が依然として主要な地位を占め、民間企業がむしろ後退している側面、すなわち「国進民退」がなきにしもあらずと認識されている。しかし、ラーディは、「民進国退」の現状が顕著であると言い、以下のような指摘をしている。
  国有企業のGDPに住める割合は3分の1ないし4分の1である。製造業に限っては20%でしかなくなっている。国有企業の投資利益率(ROI、投資回報率)も2013年には3.7%にまで低下している。
  国有企業のコストが高いのも問題である。とりわけ物流コストが高く、製造業及び消費者の負担を高め、中国の商品の国際市場における競争力も弱めている。
  そこで、民間企業をさらに強くする経済・金融政策と国有企業改革が必要であると指摘している。投資効率は民間企業の方がいい訳だが、銀行の民間企業への融資は全体の52%であって、これはGDPの3分の2ないし4分の3を占める経済実体への融資規模とするには適っていない。銀行の金利自由化を促し、銀行の自由意思で民間企業への融資を増やすことが必要である。国有企業のトップの人事権は中国共産党に握られているが、これはコーポレート・ガバナンスにおける根本的な欠陥である。(筆者はまだ“Markets over Mao”を所持していないので、Wall Street Journal 2014年9月4日付によった。)
  さて、最近では国有企業と大手民間企業の資本業務協定が増えつつあるようである。中国石油化工株式有限公司が子会社「中国石化販売有限公司」の株式30%を民間企業の譲渡する計画である(Wall Street Journal 2014年9月5日)。テンセント(騰訊控股有限公司)やウォルマートの子会社の通販サイト「1号店」などが候補に挙がっている。中国石化は、投資家には同社の取締役会(董事会)にも社外取締役としての役員を派遣することを依頼し、企業改革を進めたいと言う。
  中国政府は、7月に中央企業の6社を企業改革のモデルとして、民間資本を導入し、企業管理改革をすることを決定している。上記はこの流れに従ったものである。
  なお根源的な改革策には至っていないようだが、国有企業改革の新たな方途が検討され、試行され始めた。

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