随分と前になるが、ジョアン・リップマン氏のエッセイ「A Musical Fix for American Schools:Research shows that music training boosts IQ, focus and persistence」がウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された(2014年10月10日http://www.wsj.com/articles/a-musical-fix-for-american-schools-1412954652)。
この中で、音楽レッスンは、IQを高める効果などがあるほかに、貧困地区と富裕地区の子供の成績ギャップを小さくするということが述べられている。
米国ロサンゼルスでは、貧困地区の子供たちに無料で楽器のレッスンを行う「ハーモニー・プロジェクト」により、参加した子供たちの学校成績が良くなっただけではなく、卒業後大学に進学する者が増えた。音楽を学んだ子供は言語力や読解力、集中力にとって重要な音声処理能力が大幅に向上したと言う。
今、中国では音楽教育が大変に熱心に行なわれている。日本ピアノ調律師協会国際局参与の田中良司氏によると、中国のピアノ調律師(有資格者)は約5,400人いるが、市場の拡大・ニーズに対して不足している状態であると言う。
2015年に中国全国のピアノ調律師によるシンポジウム「ピアノ調律師の育成と発展」が開催された。このシンポジウムでは、ピアノ調律師は、関連業界との交流努力を怠らず、大学・高専など高等教育の発展に時代感覚を持ち、人材育成に関して企業と消費者の両方を満足させなければならいということが指摘された。ピアノ調律師は、初級技能、中級技能、高級技能、技師、高級技師の5ランクに分けられているが、高級技師は全国で128名しかいない。技師も184名しかいない。今、ピアノ調律師の技術向上が大きな課題になっている。
そこで、日本との交流に力が入れられている。調律師のレベルアップ、アフターサービスの提供の方法、社会におけるピアノ調律師に対する認識と理解の拡大などで日本に学びたいことが少なくないようである。ピアノ調律師としての社会貢献ということも見据えている。
さて、中国で音楽教育が普及していることは上述したが、そこで騒音が大きな環境問題となってきている。ピアノなどの楽器の出す大きな音が、周囲には騒音として捉えられることもあり、防音室の開発、建設という問題が楽器業界では強く意識され始めている。今後、防音室関係の製品、素材、技術の輸出可能性、または防音室建設といった工事請負などのビジネスチャンスが生まれるだろうか。ただ、防音室の建設コストは非常に高価なので、当面はヘッドホンなどの使用により音を外に出さない電子楽器が普及することになりそうである。