中国社会科学院は、2015年12月24日に「社会藍皮書(社会青書);2016年中国社会情勢の分析と予測」を発布した(社会
科学院文献出版社のホームページなどで概要が見られる。http:
//www.ssap.com.cn/Web/c_0000000100290002/d_54259.htm)。社会藍皮書は、毎年、経済発展予測、政
府の財政、就業状況、人口構成、および市民の収入、社会への参画状況などについての分析と予測がなされているが、2016年に注目されるのが中間層の経済
状態と所得格差の問題である。
中間層の年平均賃金収入は19万1,879元で、全国で北京が最も高く25万6,016元となっている。中間層を形成
するのは、私営企業に勤務する従業員が最も多く約40%、次いで国有企業が約22%、国有事業単位が約15%という順番になっている。中間層は、主に大都
市に集中し、中国経済の停滞、失業圧力の増加といった問題を抱えているが、将来的には新たな消費を担う存在になると予測されている。また、中国の貧富の格
差は、この2年間で狭まり、低所得層の収入も比較的に早く増えてきていると言う。
しかし、この見方に対する反対意見もある。四川六四天網人権事務センターの代表・黄gは、中国における貧富の格差はむ
しろ拡大し続けていると言う(Radio Free Asia
http://www.rfa.org/english/)。これに関連して、ニューヨークタイムズのクリス・バックレーは、トップ1%の富裕層が中国の
富の3分の1を保有し、最下層の4分の1の世帯は、富の1%しか保有していないと紹介している(1月28日付「Studies Point to
Inequalities That Could Strain Chinese
Society」http://cn.nytimes.com/china/20160128/c28chinasociety/en-us/)。
社会青書によれば、所得格差は、家庭の背景、すなわち両親の教育程度が教育水準に大きく影響していると言う。しかし、
それ以上に政治的特権、すなわち父親が共産党員であるか否かが重要な要素になっているのではないか(母親が共産党員であるか否かは影響していないと分析さ
れている。)。また、女性の教育を受ける機会は、男性のそれよりも1年半短くなっており、男女平等ではない。
また、社会青書では、教育問題のほかに住宅および医療サービスを受ける機会も重要課題として取り上げている。とりわけ、女性、農村住民および低所得層の医療費補助が少なく、自己負担率が高いという問題があることも指摘されている。
社会青書の調査によると、北京、上海および広州の中間所得層の42%は政治問題について仲間と議論することがあるという
が、非中間所得層はこれが27.7%しかなかった。低所得層の政治に対する無関心が高まっているのか、政治に無気力になっているのか気にかかる。政治は、
ますます上位中間層、高所得者層をターゲットにしたものとなり、格差社会が広がることになる懸念が強まる。