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Last Update:2016/02/25
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第302回 大国意識の高まり 〜 外国仲裁機関に対する司法監督

A growing sense of Big Power
〜 Judicial Supervision to Foreign arbitration institutions

(2016年2月25日)

  2016年2月13日付の人民日報は、習近平の「新型大国関係」外交戦略が形成されてきた流れを紹介する論説を掲載した。今、さ まざまな面で中国の大国意識の高まりが感じられる。外交関係だけでなく、外国の民間機関に対する監督意識も強くなっているようである。国際商事仲裁という ビジネス実務面においてもこれが見られる。
  中国企業と外国企業との間でビジネス紛争が生じた場合、商事仲裁により紛争を解決することが多い。そして、この仲裁を 外国の仲裁機関に委ねることも多い。外国仲裁機関が仲裁を行った結果、中国企業に対して外国企業への給付義務を課す判断を示し、ところが中国企業が任意に この仲裁判断を履行しない場合、外国企業は中国民事訴訟法第267条により、中国国内で外国仲裁判断の承認および執行を中国人民法院に請求することにな る。中国は、外国仲裁判断の承認および執行に関する国際条約(ニューヨーク条約)に加入しているので、この条約の適用を受ける。
  ニューヨーク条約第1条第1項は、「この条約は、仲裁判断の承認及び執行が求められる国以外の国の領域内においてされ、かつ、自然人であると法人であるとを問わず、当事者の間の紛争から生じた判断の承認及び執行について適用する。この条約は、また、仲裁判断の承認及び執行が求められる国において内国判断と認められない判断についても適用する。」(下線は筆者が付した。)と規定している。
  外国で行われた仲裁判断、中国国内で行われたが国内仲裁と認められない仲裁(これを「非内国仲裁」という。)が広義の外国仲裁判断ということになるが、今、この外国仲裁判断の概念が問題となっている。
  中国は、仲裁を(1)外国仲裁、(2)渉外仲裁、(3)国内仲裁の3つに分類している。(1)外国仲裁は、外国仲裁機関 が行うものを言い、(2)渉外仲裁は、中国国内の仲裁機関が外国企業と関わりのある紛争を仲裁するものを言い、(3)国内仲裁は、国内仲裁機関が国内企業 間の紛争を仲裁するものを言う。外国仲裁判断とする基準は、これまでは外国仲裁機関の本部の所在地をもって仲裁判断の国籍としてきた。ところが、これが仲 裁が行われた地を基準とするように変化してきている。
  2009年4月、寧波市中級人民法院は、国際商業会議所(ICC。本部はパリ)国際仲裁裁判所が北京でICC仲裁規則 に基づき仲裁を行い、ここで示された判断を外国仲裁とはせず、非内国仲裁とした。外国仲裁と認定しなかった初めてのケースが現れた。
  また、2009年12月30日に最高人民法院は「香港仲裁判断の内地における執行の関係問題に関する通知」を発布し た。この通知は、香港で行われた臨時仲裁判断、ICC仲裁裁判所が香港で行った仲裁判断の執行について、「内地と香港特別行政区の仲裁判断の相互執行に関 する調整」により審査することを規定したものである。この通知により、ICC仲裁裁判所が香港で行った仲裁判断について、最高人民法院は仲裁地基準により 香港の仲裁判断と認定し、フランスの仲裁判断とはしなかった。
  中国にとっては仲裁機関の所在地の基準によるより、仲裁地の基準を採用したほうが都合がいい。香港は内地となり、中国 国内でICC仲裁裁判所が仲裁を行った場合には、国内仲裁機関が行った渉外仲裁判断と同じことになる。そうであると、ニューヨーク条約の判断基準に従わな くても良いということになる。大国意識が高まっているところ、国際条約の中国への適用基準を変えるような動きが強まりはしないか懸念される。  


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