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(2016年3月09日)
2016年3月5日から第12期全国人民代表大会第4回会議が始まった。李克強首相による政治活動報告が行われ、2016年から2020年までの第13次5カ年計画も発表された。5カ年計画の内容など会議の概要は、日本のメディアでも詳しく報道されるので、ここで叙述する必要はないだろう。 ただ、筆者は今後の中国が政治主導のポリィティカル・エコノミーから私営企業を中心としたアバカス・エコノミー(Abacus Economy=そろばん経済)へ移行することを期待したい。筆者が言う「そろばん経済」とは、市民が明文化され得ない知恵を活用することのできる経済を言う。ハイエクが、社会主義計画経済がうまくいかない理由の1つに、計画経済だと市民の知恵が活かされないということを挙げている。 文化大革命を乗り越えた中国共産党は、1982年憲法でその任務を政治活動から経済発展へと切り換えた。私有制が広く認められ、市民の経済活動が多様化した。党・政府による経済統制も随分と軽減された。そして、1993年には計画経済から社会主義市場経済へ転換が図られた。このときに従来の「国営企業」(state-run enterprises)は、「国有企業」(state-owned enterprises)と呼称が変えられた。 しかし、現実には多くの企業活動において、依然として国有企業優先・優位の政策がとられ、党・政府のゴム印がなければことが進まない経済体制がはびこっている。今回の李首相の政府活動報告では、旧経済体制かで巨大化し、過剰設備を抱え、イノベーションの図れないゾンビ企業を淘汰するということが言われているが、問題はそれだけではない。筆者は、ゾンビ企業の淘汰だけではなく、中小ベンチャー企業に有効な資金、リスクマネーを回すことも不可欠であると考える。 今、習近平国家主席の勧める反腐敗運動の弊害として、行政担当者がその職務活動に萎縮して、中小ベンチャー企業への資金提供・支援に消極的であるという事実がある。すべてのベンチャー企業が間違いなく成長するわけではなく、不良な企業もあるので、有望企業を見極める能力のない行政担当者が一律に投資を許可せず、このために成長できない企業がある。アントラプラナーを育て、イノベーションを図ろうとする政策に逆行する形になっている。 2015年に最高人民法院は、「法による平等で非公有制経済を保護し、非公有制経済の健全な反転を促進することに関する意見」を発布している。これは、人民法院が企業の労働紛争や企業破産などの事件を処理する場合において、企業発展と労働者の権利保護を同時に満足させようとするとき、ゾンビ企業であるのか、病状をうまく直せば治癒する企業なのかを見極めて、非公有制企業にも公平な対応をするように指示したものである。 党・政府には、余りに過度な管理意識から脱却し、市民が重要な政治・経済問題に参画することを認め、市民のそろばん勘定に委ねる意識改革が必要である。
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