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(2016年3月23日)
今回の全人代における李克強首相の政府活動報告で「新経済」という言葉が使われた。新経済とは、何か。分かりにくいが、(1)新 原動力、(2)新産業、(3)新業態の3つの要素から構成されるものである。ただ、この関係は並列ではなく、新原動力を以って、新産業を育成し、新業態を 形成するということである。 新産業、新業態も明確に分類できるものではなく、重複することもありそうである。李首相の記者会見時の質問に対する回 答では、「“新経済”とは、新原動力を育成し、中国経済の構造転換と高度化を促すことである」と言い、「新興サービス業、新業態のみを指すのではなく、工 業におけるスマート製造、大規模なカスタマイズド生産なども含み、さらに第1次産業における適度な大規模経営の家庭農場や株式協同組合の推進、農村におけ る第1次産業、第2次産業、第3次産業の融合的発展などにも関わる。」と言う。 李首相は、第13次5カ年計画においては、新原動力により、新産業、新業態に政策を傾斜すると言う。「新原動力」(中 国語で「新動能」という。「新運動エネルギー」という日本語訳が当てはめられていることもあるが、新たなドライビング・フォースという視点であろうと考 え、ここでは新原動力としておく。)を育成し、新経済の発展を速めると述べている。さらに、従前は企業の技術改造及び現場の生産能力拡大により経済を発展 させる成長政策がとられてきたが、これからは政策の限界効用(辺際効益)を高めると言う。 筆者は、下線を引いた箇所に着目するのだが、下線部分はどのように解されるのか。 過去の政策に関して企業の技術改造というが、どこまで改造が行われていたと言えるのか疑問もある。最近の中国は、技術革 新(イノベーション)ということを言う。過去においては、およそ技術革新というレベルではなかったということを認識したものであろう。技術の発展段階には 5段階ある。第1段階は導入機械の操作技術の習得、第2段階は機械の維持技術の習得、第3段階は保守・メンテナンス技術の習得、第4段階は導入機械の自主 設計技術の習得、第5段階で新製品の自主開発を行えるようになるという5段階である。イノベーションできることは、第5段階に至っているということになる が、現時点ではまだ第5段階に至っているとは言えないという認識である。 現場の生産能力拡大とは、単に資金、人員、機械の多投資により規模の拡大を図ってきたということであり、生産効率が追求されて来なかったということを認めるものである。 政策の限界効用を高めるとは、習近平体制になってからの経済政策には評価できる効果がなかったことを認識したものであろう。 そこで出てきたのが新経済という概念であると考える。3月17日に発表された第13次5カ年計画(規劃)綱要からは、新 経済においてIT、インターネットに大きな発展余地(空間)があり、そこでIT、インターネットを新原動力にしたいというのが具体的な政策として見えてき た。 さて、李克強が政治活動報告を終えて席に戻った時、習近平は、「拍手せず、握手せず、会話せず」の三無であったと伝え られている。習近平国家主席は、李克強は遥かに格下であるという意識を持っているからか、全人代代表にもそのように見せつけるためなのか、それとも「政策 の限界効用を高める」という発言ぶりが、習主席の経済政策批判とでも捉えたのだろうか。もしかして、李首相は、密かに周主席の経済政策がほとんど評価でき ないほど無策であるということを意識的に批判したのだろうか。「新常態」から「新経済」へという新しい表現に李首相の抑圧に対する不満、経済政策について は主導権を発揮したいという思惑が含まれているのかも知れない。
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