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Last Update:2016/05/02
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第306回 憲法の精神と域外NGO域内活動管理法

Fundamental Principles of the Constitution and the Law on Domestic Activities of Overseas Nongovernmental Organizations

(2016年5月2日)

  「域外NGO域内活動管理法」(境外非政府組織境内活動管理法)が2016年4月28日に第12回全国人民代表大会常務委員会第20回会議において採択された。この法律は、2017年1月1日に施行される。
  域外NGO域内活動管理法は、西側諸国のNGOが、基金会、社会団体、シンクタンクなどの名義で中国市民社会のための法律支援や法の支配に関する広報活動、弁護士の育成などをしているが、これらNGOの活動に対する管理を強化するための法律である(第2条)。具体的には、経済、教育、科学技術、文化、衛生、体育、環境保護などの分野で貧困層支援や災害支援などの公益事業を行っている全てのNGOが対象となる。対象となるNGOはおよそ7,000あると言われている。
  NGOの設立に際して各団体は、(1)登記前に業務の所轄政府機関を決定しなければならず、(2)所轄政府機関の同意を得て、かつ公安部の許認可を得なければならないとされている(第6条)。このような活動は、本来であれば民政部が所轄官庁として適切であろうが、公安部とされている。
  公安部に不適格とされたNGOは活動を縮小するか、または撤退をせざるを得なくなる。
  域外NGO域内活動管理法は、習近平の西側の思想的影響を排除したいという意識の表明である。西側による中国に対する「和平演変」を許さないということである。
  西側の憲法の精神は、民が民主、法の支配に言及し、重要な政治問題に市民が参画することを認める。これにより人権が保護される。しかし、習近平政権は、これを認めない。市民、とりわけ貧困層による憲法または道徳規範に対する主張・意見・不満、党・政府に対する反対意見に耳を傾けなければ、社会のセイフティ・ネットは確保されないのではないか。1982年憲法では、西側の「法による支配」(Rule of Law)の概念とは異なるものの、多少なりとも「依法治国」(法による統治=Ruling the Country According to Law)を行おうとしてきた。今、このときの思想に逆行しようとしている。
  中国で法律英語を学習するものが少なくない。このとき「法の本質」、「憲法」、「三権分立」など西側の概念が学ばれる。これは習近平の意識形態(イデオロギー)に反するものとなりそうである。そうであると、法律英語の学習をしてはならないという通達でも発布されることになりそうでもある。
  NGOの所轄機関である公安部は、NGOに立ち入り検査する権利があり、従業員もいつでも尋問されることがある(第41条)。NGOに勤務する中国人従業員は、そのうち公安部がNGO服務局でも設置し、必ずこのNGO服務局を通して、同局に登録されている共産党員でないと従業員の採用はさせないというようなことにもなるのではないかとも考えてしまう。

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