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Last Update:2016/06/22
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第310回 大学入試カンニングに重罪:人権問題はないか

The Gravity of The Crime for College Entrance Exam Cheaters

(2016年6月22日)

  2015年11月に刑法が改正・施行されたが、この中に「全国的国家試験において不正行為(カンニング)または共同不正行為をした場合には、情状の軽いときには3年以下の有期懲役及び罰金に処し、情状の重いときには最高7年以下の有期懲役に処する」(第284条の1)という規定が設けられた。これに関連して、2016年6月3日に教育部は今年の大学入試試験にこの刑法を適用すると発表した。
  中国の大学入試は全国統一試験で、成績上位者から入学する大学が割り当てられる。将来のライフ設計を考えると一流大学に入学すれば国家公務員または国有企業を中心とする一流企業への就職がかなり担保されるが、中低レベルの大学に入学すると就職難が待ち受けることになる。
  カンニングは許される行為ではないが、それでも量刑が重すぎるという大学生らの声が多い。人権ということを考えた場合、教育部が大学入試に刑法を適用することにしたという判断が適切か否か問題となりそうである。
  なぜ、教育部はこのような厳しい適用をしようとするのか。これには習近平総書記の「青年の価値が未来の全社会の価値を決定する。青年が価値観を形成し、確立しようとする時期にしっかりとした価値観を育まなければならない。」という2014年5月(五四青年節)に北京大学での講話に応えなければならないという要請によるものだろう(2016年5月4日付『人民日報』は、2013年以降の五四青年節における習近平総書記の講話のポイントを掲載している。)。
  大学生は、社会主義の核心的価値観を認識し、(1)認知、(2)情感、(3)理性、(4)行為の4段階においてこれを正しく認識しなければならないと言う。正しい認識とは、(1)歴史的淵源、理論的基礎から優秀な伝統文化があることを理解し、(2)情報の分析・検討・加工、かつ推理、評価、選択をし、(3)自身を見つめ直し、言行を改め、(4)愛国精神を持ち、社会的責任を負い、積極的に国家社会の発展に尽くすことである。
  核心的価値観とは何か。中国共産党中央は、2013年末に「社会主義の核心的価値観の育成と実行に関する意見」を発布している。習近平国家主席は、中共中央政治局第13回集団学習の席上、中華の優秀な伝統文化思想に精通し、愛国主義を核心とする民族主義精神を高揚することであると述べており、これが核心的価値観の目指すものということになる。
  このようなことが今の中国で言及されるのは、西側の思想文化が中国に強く浸透しており、このために大学生の社会主義の核心的価値観に対する認識が相当弱まっているという危機意識があるからである。
  刑法改正及び教育部の大学入試への刑法第284条の1の適用発表は、上述のような意識から生じたものであろうが、人権を考えた場合適当か否か、また、核心的価値観を植え付けることで自由な思考を制約しようとすることが、果たして中国の将来にとって良いことと言えるか否かは疑問である。

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