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Last Update:2016/11/09
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第319回 信訪(行政相談)と裁判の分離

To Detach Public Administration from Trial

(2016年11月09日)

  劉震雲の同名小説「我不是潘金蓮」(私は潘金蓮じゃない)の映画の上映が2016年9月から始まり、好評を博しているようだ。
  この映画は、李雪蓮という農民女性が主人公である。李雪蓮は、一人っ子政策に隠れて2人目の子供をもうけるために夫の秦玉河と偽装離婚をした。ところが夫は、これをいいことに他人と結婚してしまった。そこで、李雪蓮は、離婚は偽装であるとして裁判を起こすが、敗訴する。しかし、李雪蓮は判決に納得せず、全国人民代表大会の開催期間に北京に行き、人民大会堂に入り込んで陳情をした。これに激怒した中央の指導者は、地元の法院院長、裁判官、県庁及び市長らを全員解職した。しかし、陳情が入れられなかった李雪蓮は、毎年、全人代の開催期間に北京への陳情を続けた。この陳情を防ごうと、李雪蓮の地元法院は毎年、院長、裁判官ほか3人1組からなる全5組を北京に派遣して、朝から晩まで駅、旅館など北京市内をくまなく回って探させるようになった。およそ見つかるはずもなく、裁判官らは風邪をひき、高熱を出し、咳に苦しむ
  小説及び映画にはさまざまな意図する主題がありそうだが、各種の陳情を受ける法院、裁判官の辛さ、裁判と信訪制度の問題点を指摘する一面が強くあるようだ。
  筆者は、2016年11月1日、北京市信訪矛盾分析研究センター(Beijing Institute of Letters to Government)主催の第1回“社会公共治理亜州論壇”に日本の代表として招かれ、「日本の行政相談制度の意義と課題」について発表をした。このフォーラムの共通テーマは、「社会公共統治の社会矛盾予防及び解決に対する機能」(社会公共治理対社会矛盾預防和化解所発揮的作用)であった。会議には、中国国内の政府関係機関、社会科学院などのシンクタンク、全国の大学からの参加のほか、外国からは、香港中文大学、シンガポール南洋理工大学、ベトナム社会科学院、台湾大学、台湾台南大学、オーストラリア・メルボン大学、オーストリア・ウィーン大学、韓国水原市政研究院からの参加があり、それぞれ各国の制度の紹介などが行われた。
  中国共産党は、今、経済発展の中で社会の矛盾が大きくなってきていることに強い懸念を抱いている。そこで、中国特有の信訪制度により社会の矛盾を解決することが注目を浴びるようになってきている(信訪制度については、2015年8月19日、9月9日、9月24日のコラムで紹介しているので、詳しくはこれをご覧いただきたい。)。
  私人間の紛争は、裁判所で法的に処理すればそれで解決というわけではない問題もある。インフォーマルな紛争解決手段も求められるところ、信訪の役割が増してきている。今、信訪を担っているのは主に政府機関である。政府の「民事不介入」という原則からすると、一体どこまで私人間の紛争に介入できるのか、または介入していいのか悩ましい。中国で信訪の制度設計が行われているところである。

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