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LastupDate:2004/12/22
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チャイナウォール
コラム、『チャイナウォール』−中国人の法意識−
第32回 消費者の知る権利
(2004年12月22日執筆)
通話記録情報公開についての訴訟
(注1)
中国において国民の知る権利についてどのような判断がなされるのか。国民は知る権利について基本的人権の一つとして意識するようになっているのか。この点について、2004年3月に注目すべき事件があったので、紹介する。
消費者の訴えが多い分野は?
鄭州市の市民である王(原告、X)は、鄭州市通信公司(Y)からの電話代請求書を受け取ったが、この請求額に誤りがあると思われ、YにXの通話記録の詳細を提示するよう要求した。Xの情報公開要求の根拠は、電信条例40条の「利用者に電話代にかかわる異議がある場合には、電信業務経営者は、利用者の要求に基づき電話代請求の根拠を提供しなければならず…」という規定である。しかし、Yは、「当公司の計算は正確である。」「当公司の発行した請求書が、電話代請求の根拠である。」と回答するだけで、通話記録の公表を拒否した。
そこで、Xは、Yの上級機関である河南省通信公司(Z)を被告とする訴えを鄭州市金水区法院に提起した。 これに対して、法院は、電話代請求が誤りであると主張するXが挙証責任を負い、これが証明されないので、Xの訴えを棄却すると判示した。
原告である王氏は、この判決に不服であるとして鄭州市中級人民法院に上訴した。今後、中級人民法院は、いかなる判断を下すか注目される。
(注1)この事件は『法制日報』で報道されたものであるが、筆者はこの法制日報を所収していないので、法制日報のウェブ・サイト(http://www.legaldaili.com.cn/zl/2004-12/08content_165741.htm)によった。
消費者の訴えが多い分野は?
国家工商行政管理局の調べによると、消費者によるクレームの申立てが多い10大分野(2003年)は以下のとおりであるという。
食品:8万件の申立てがあり、うち約55%は、品質問題。
携帯電話:電話機の品質に関する申立てが8万件、69%にのぼる。
農業資材:種子、農薬、化学肥料、飼料の品質に関する申立てが2万件。
商品住宅:内装の質、共有施設の質などの問題が43%と最も多く、次いで設計変更・引渡しの遅延など契約にかかわる問題、さらに虚偽の広告、詐欺などの問題がある。
電信サービス:固定電話の通話料の誤り、通話記録・明細の不発行、インターネットの接続に関するトラブルなど2.6万件。
室内内装:建材の質、ホルムアルデヒドなど有害物質の使用などの問題で3.2万件。
自動車:品質、部品の供給などの問題や保険会社への顧客情報の流出などの問題で4813件。
仲介サービス::不動産、求人、留学などの仲介サービスにかかわる申立てが1万件。
保健衛生用品:SARSの影響などで薬品、体温計、消毒液などの品質やニセモノ、虚偽の広告にかかわる問題が出現。
電子契約:インターネット上の商品購入に関連して、返品、納期、虚偽の広告、顧客情報の流出などの問題が発生。
知る権利、情報公開議論が高まる可能性
さて、上記の事例に戻ると、法的な争点としては、(1)知る権利とは何か、(2)知る権利を主張する場合の挙証責任の要否、(3)挙証責任の負担者は誰かということなどがある。
消費者権益保護法、反不正当競争法、製品品質法(PL法)などがあり、消費者の権利意識、情報公開の要請は高まり、企業側もこれに応えざるを得ない状況となっている(一方で、外資系企業がいわれのない訴訟に巻き込まれるという事態もあるが。)。
この中で、知る権利が直接的に問題となったことは、これまでにはなかったようである。現時点において、消費者が知る権利について、国民の基本的人権の一つとして意識するようになっているとまでは言えないかも知れないが、今後は、消費者および企業の双方で、「知る権利」の概念を明らかにし、如何に情報公開していくかということについての議論が始まるのではないだろうか。
次号の更新は
1月12日(水)
ころを予定しています。
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