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Last Update:2018/3/14
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コラム『チャイナウォール』-中国人の法意識-

 第351回 啓蒙専制主義

(2018年3月14日)

  啓蒙専制主義とは、少数者が多数者に向かってくわだてた専制主義の偽装であり、粉飾であることをいう。
  中国は「依法治国」(法により国を治める)という。すなわち法治国家ということである。では、先進諸国において法治国家とはいかなる意味であるのか。原田教授は、「法治国家とは、社会内の諸力の自由操作に対して国家的統治力は単なる助成的・確保的活動をなすにとどまり、決して制動的・高圧的作用を営まざる如き国家を意味する」(原田鋼『法治国家論』有斐閣、平成2年)と言う。
  法治国家の定義が上述の通りであるとすれば、今の中国は法治国家とは言えないのではないか。中国の言う法治国家は、形式的な法治国家である。また、中国指導者には、上述のような法治国家を目指そうという意図もないのではないかと思われる。
  陳独秀は、「もし資本主義社会の民主に反対したり、軽蔑したりする人がいるなら、これはマルクス主義ではなくて、ファシズムである」、「民主はどれか一つの階級の概念ではなくて、人類が幾百年もの闘争によってやっと実現したものだ」と言う(李鋭『中国民主改革派の主張—中国共産党私史』岩波書店 2013年)。
  資本主義国においては、民主は、国内で多様な意見を求め、議論を尽くすることにより、かえって安定的な社会を形成する上で有用に機能するものであると考える。しかし、今の中国においてこのような考え方は、指導部にはない。中国指導部の考え方は、中国において自由に意見を言う民主を追求するならば、統制がとれずに混乱をもたらすことになる。そこで、中国には、共産党が政治も経済も適切に導くのが相応しいという考え方が根強くある。
  市民は、どうであるのか。多様な意見があり、多様な環境がある。しかし、これを発言する場を持ってはいけないと意識しているのだろうか。アーサー・H・スミスは、「中国人は自分で気づいていないが、宿命論者である。彼らがよく口にする天命は、実質的には運命と同じものである。彼らは天を怨まず、運命を呪わない。彼らは貧富に処する道を知っており、冨もこれを楽しみ、貧しきもまた楽しむという、足るを知っている」と言う(アーサー・H・スミス『支那的性格』中央公論社、1940年)。中国人的性格からすると、今はこのような体制の道徳規範だから仕方がないと諦め、今の歴史が通り過ぎることを忍従していると見える。

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