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Last Update:2018/3/28
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コラム『チャイナウォール』-中国人の法意識-

 第352回 監視社会化へ監察法の制定

(2018年3月28日)

  第13期全国人民代表大会第1回会議は、2018年3月20日に「監察法」を制定して閉幕した。監察法は、同日から施行されている。
  監察法は、全9章、69条からなる。その構成は、第1章「総則」、第2章「監察機関およびその職責」、第3章「監察範囲と管轄」、第4章「監察権限」、第5章「監察手続」、第6章「反腐敗国際協力」、第7章「監察機関及び監察員に対する監督」、第8章「法律責任」、第10章「附則」となっている。
  監察法の目的は、全面的に依法治国(法により国を治めること)を推進し、国家の監察を全面的に広めることを実現し、反腐敗活動をさらに展開するために、この法律を制定することである(第1条)。監察活動を指導するのは、中国共産党であり(第2条)、監察機関が公職者に対する監察、調査を行う(第3条)。ここで監察機関とは、新しく設置された監察委員会のことをいう。監察委員会には、すでに最高人民検察院から150人が異動しているという。
  監察の対象は、以下の6類の公職者である(第15条)。 ① 中国共産党、全人代、行政、政治協商会議、監察、審判、検察、民主党派及び工商連合の各機関の公務員、並びに「公務員法」により管理される者である。 ② 法律、法規により授権され、又は国家機関から法により公共事務管理を委託され、公務に従事する者 ③ 国有企業管理者 ④ 公的な教育、科研、文化、医療衛生、体育などの機関に従事する管理者 ⑤ 基層大衆自治組織に従事する集団事務管理者 ⑥ その他法により公務を行う者
  監察法の制定・施行により憂慮される点がある。監察法は、監察委員会に留置調査権を付与しているが、これは人身の自由を制限するものである。刑事訴訟法は、人権保障をしつつ、真実をお明らかにしようとするものであるが、監察法は人権保障をなおざりにしている。このことから、手続きの正当性に対する懸念も生じる。また、刑事犯罪の被疑者に対しても、憲法及び刑事訴訟法により弁護を受ける権利があるが、監察法はこの権利を侵害する恐れもある。中国の反腐敗監督機関は共産党の一部門であるが、この機関が取り締まれるのはこれまでは8,900万人の共産党員だけであった。監察法は、その対象を大きく広げたのであるから、人権保障との調和が保たれるか憂慮される。監察法(草案)においては、同法が憲法に基づき制定されるとは書かれていなかった。憲法をしのぐ法律になるのではないかと懸念されていたが、この点は最終稿第1条で「憲法に基づき本法を制定する」規定された。
  中国共産党は、警察などあらゆる組織や制度を通じて市民の信用情報(格付けシステム)を集めようとしていることが伝えられている。監察法の制定及び国家監察委員会の設置により、市民を監視(監察)する体制が強化される。監察法及び監察委員会について詳しく検討する必要がある。

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